求人サイトで「テナント工事担当(発注者側)」という募集を見かけて、手が止まったことはありませんか。発注者側なら働き方は良さそう。でも、具体的に何をする仕事なのかが分からない。施工管理の経験で務まるのかも分からない。
私は電気サブコンで施工管理を6年経験したあと、発注者側の会社へ転職し、既存ビルのテナント工事を、電気担当として受け持っていました。 この記事では、その仕事の中身を、業務の流れから向き不向きまで実体験で書きます。
先にお断りしておきます。私が担当したのは、すでに建っているビルに入居するテナントの工事(入居・改修)です。新築のビルを一から開発する仕事とは、中身が違います。また、求人サイトで「発注者側」と検索すると、公共工事の「発注者支援業務」の求人もたくさん出てきますが、それとも別の仕事です。
結論|テナント工事の発注者側は、電気を一手に引き受ける窓口役
先に結論です。
テナント工事の発注者側の電気担当は、入居するテナントの工事で、見積から竣工まで、電気まわりを一手に引き受ける仕事です。自分で工事を回すのではなく、テナント・設計者・協力会社の間に立つ窓口役になります。
- 一番時間を使うのは、テナントに出す見積書の積算
- 設計者に電気の助言をする場面が多い。施工管理の経験が一番活きるところ
- 同時に約10件を受け持つ。小さい案件を並行して進める仕事
求人の言葉は「設備担当」でも、私の場合は電気担当でした。空調や衛生は、別に機械の担当者がいます。案件の中で電気のことが分かるのは自分だけなので、活躍の場はありました。
テナント工事の発注者側とは|何が違うのか
「発注者側」と一口に言っても、仕事の中身はさまざまです。私が経験した仕事を中心に、施工管理時代と比べるとこうなります。
| 項目 | 施工管理(サブコン)時代 | テナント工事の発注者側(私の経験) |
|---|---|---|
| 立場 | 工事を請け負って、施工する側 | 工事を発注して、テナントとの間に立つ側 |
| 対象 | 新築工事が中心(改修も担当) | 既存ビルのテナントの入居・改修 |
| 1件の規模 | 中規模の新築現場を1件、改修を掛け持ち | ビルの一区画〜数フロアの案件を、同時に約10件 |
| 主な仕事 | 工程・安全・品質・予算を自分で回す | 積算・見積、設計者への助言、協力会社との調整、図面のチェック、検査の立会 |
| 現場に行く頻度 | 毎日(現場に常駐) | 現場に行く日だけ出社 |
施工管理時代は、1つの現場に張り付いて工事そのものを回していました。発注者側では、複数の案件を並行して見ながら、要所で判断する働き方に変わります。
仕事の流れ|2つのパターンがある
テナント工事への関わり方は、2つのパターンがありました。
| パターン | 流れ | どんなときか |
|---|---|---|
| ① 設計から関わる | 設計(電気の一部) → 積算 → 工事 → 竣工・引き渡し → 竣工図のチェック | テナントから設計も依頼された場合 |
| ② 積算から関わる | 積算 → 工事 → 竣工・引き渡し → 竣工図のチェック | 設計の依頼がない場合 |
「設計」といっても、一から全部を設計するわけではありません。大枠の設計は、別の担当者が行います。
テナント工事の設計図は、新築工事の設計図とはだいぶ別物です。描かれているのは、照明やコンセントなど、利用する人が使うもの、使い勝手が気になるものが中心。自動火災報知設備のように、法律で必要でも利用する人が直接は使わない設備は、私が計画していました。作るのも、かしこまった設計図ではなく、簡単な平面図くらいです。
②の場合でも、図面を受け取ってから見積を作るので、図面を読み込むところから仕事が始まります。
主な業務
積算|テナントに出す見積書を作る(一番時間を使った)
一番時間を使ったのが、入居するテナントへ出す見積書の積算です。
設計図から数量を拾い、単価を入れて、見積書にまとめる。施工管理時代に増減見積を作っていた経験が、そのまま土台になりました。現場で赤字を出さないために数量を拾っていた作業が、今度は発注者側の見積として活きた形です。
施工管理時代の増減見積の作り方は、こちらに書きました。
設計者への助言|「これでは積算ができません」
施工管理の経験が一番役に立ったのが、ここです。
テナント工事の設計者は、電気が専門ではないことがほとんどでした。受け取った設計図に回路番号がなく、配線の記載もない。これでは、どのケーブルを何メートル使うのかが拾えず、積算ができません。
そのため、「このままでは積算ができないので、回路番号と配線を入れてください」と助言することが多くありました。設計者が悪いのではなく、役割が違うのだと思います。電気の施工を知っている人間が、図面の足りないところを補う。発注者側の電気担当に求められているのは、まさにこの部分でした。
協力会社との調整
工事中は、協力会社(主に電気)と調整します。自分で職人さんに指示を出していた施工管理時代とは、立場が逆になります。
一番多かったのは、テナントの要望を協力会社に伝えることです。テナント工事は、工事の途中で内容が変わることがあります。変更が出るたびに、テナントの要望を協力会社へつなぐ。その間に立つのが、発注者側の電気担当の役目でした。
逆に、建築工事との調整は、自分ではやりません。 ボード屋さんなど建築側との段取りは、協力会社に任せます。施工管理時代は、ボードが貼られる前にボックスを建て込むため、夜遅くまで現場に残ることもありました。この調整の負担がないだけでも、個人的には相当楽になりました。
施工管理時代に、建築の遅れを深夜の作業で取り戻した日のことは、こちらに書いています。
サブコンを辞めたい|キツさの正体は「立場」だった。6年働いた私の結論
プロット図・施工図・仕様書のチェック
協力会社から出てくるプロット図や施工図、仕様書を確認します。仕様書は、主に照明器具と盤類です。
どれも新築工事ではないので、見る範囲は狭くなります。ビルの一区画の狭いエリアから、広くても3フロアほど。施工管理時代と比べると、1件あたりの範囲はだいぶ減りました。その代わり、案件の数が増えます。
見ていたのは、次の2つです。
- 設計図と合っているか
- ビルの仕様と合っているか
見やすさについても伝えていましたが、そこまで対応してくれる担当者は、私が見た範囲では多くありませんでした。
中間検査・竣工検査の立会
天井や壁が塞がる前の中間検査と、仕上がった後の竣工検査に、発注者側として立ち会います。検査で発注者側が何を見ているのかは、こちらにまとめました。
中間検査・竣工検査で発注者が見ているところ|電気設備のチェックポイント
竣工図のチェック
引き渡しのあと、協力会社から竣工図が提出されます。この竣工図のチェックも、発注者側の仕事です。
1週間と1年の流れ|出社と在宅は半々
働き方も書いておきます。
| 項目 | 実際 |
|---|---|
| 出社と在宅 | おおむね半々(出社2日なら在宅3日、またはその逆) |
| 現場に行く日 | 出社日にまとめる |
| 忙しい時期 | 12月末(年末)と3月末(年度末) |
| 残業 | 年間平均で月15〜20時間ほど(忙しい時期は月20〜30時間) |
現場に行く日を出社日にしていたのがポイントです。
忙しくなるのは、年末と年度末です。区切りのタイミングで竣工する案件が多く、この時期は在宅が1日もない週もありました。とはいえ、施工管理時代の「休日が消える」忙しさとは、まったく別物です。
施工管理の経験が活きたこと、苦労したこと
活きたこと|図面の足りないところが分かる
先ほど書いた設計者への助言が、その代表です。回路番号や配線がない図面を見て「これでは拾えない」と分かるのは、自分で施工図を描き、材料を拾ってきたからです。
積算も同じです。増減見積を作ってきた経験があったので、数量の拾い方や見積の組み立てに迷うことはありませんでした。
苦労したこと|ビルごとに独自のルールがある
一番苦労したのは、ビルごとに独自のルールがあることでした。
既存のビルの中の工事なので、使えるスイッチの種類など、ビルごとに決まりがあります。分電盤も、テナント用のものがあるのが一般的ですが、古いビルでは、テナントの中に新しく設ける必要がありました。
そして、このビルごとのルールを、設計者に分かってもらうのが大変でした。入社後に一番苦労したのも、やりがいとは逆に大変だったのも、この「ビルごとの決まり」です。
発注者側に回って見えたこと|先輩の教えは正しかった
発注者側として定例会議や検査に出るようになって、気づいたことがあります。
自分がサブコン時代に教わってきたことは、正しかったということです。
私が見た範囲では、協力会社によって、段取りの組み方やプロット図の精度に差がありました。受け取る側に回ると、その差がよく見えます。そして、自分が当たり前だと思ってやっていたことが、実は当たり前ではなかったと分かりました。
たとえば、総合図は白黒で描き、線の太さで見るべきところを分ける。サブコン時代に先輩から言われて、言われたとおりにやっていたことです。先輩の言うことを聞いてやっていてよかった、元のサブコンは優秀な会社だった——発注者側に移って、初めてそう思えました。
発注者側から施工会社がどう見えているかは、査定する立場から詳しく書きました。
やりがい|完成したテナントが、動いているのを見られる
この仕事で一番やりがいを感じたのは、完成したテナントが入居して、実際に使われているのを見られたときです。
テナント工事は、同じビルに何度も行きます。そのたびに、以前に担当したテナントが入居して稼働しているのが分かる。自分が関わった工事が、ちゃんと使われているのが見えます。
施工管理時代は、完成した後の建物に行くことは、ほとんどありませんでした。引き渡したら次の現場へ。だから、使われている場面を見られたのは、素直に嬉しかったです。
向いている人・向いていない人
| 向いている人 | 向いていない人 |
|---|---|
| 電気の知識がある人 | 新築工事・大規模工事をやりたい人 |
| 携わった工事の建物(テナント)が動いていることに、やりがいを感じられる人 | 受変電設備など、建物全体に電気を送る高圧の設備に関わりたい人 |
| 改修工事が得意な人 | |
| 小さい案件を、複数並行して進めるのが得意な人 |
テナント工事は、既存のビルの中の小さな工事が中心です。新築の大きな現場で、受変電設備から全部つくりたい人には、物足りないと思います。逆に、改修工事の経験がある人や、細かい案件をテンポよく回すのが得意な人には、施工管理の経験がそのまま活きる仕事です。
同じ発注者側でも、設備系コンサルタントの仕事は、また違う形で施工管理の経験が活きます。比べて読んでみてください。
設備系コンサルタントの仕事内容|元施工管理が書く実務のすべて
テナント工事の発注者側を目指すための3ステップ
ステップ1|求人の「設備担当」は、中身を確かめる
求人票に「設備担当」と書かれていても、私の場合は実際には電気担当でした。空調・衛生は別の担当者がいます。自分が電気の経験を活かせるのか、それとも設備全般を求められているのかは、応募の前に確かめておきたいところです。
また、私が転職活動をしたときは、発注者側の求人が「建設」ではなく「不動産」のカテゴリに入っていることがありました。求人を探すときは、「不動産」のカテゴリも見てみてください。
ステップ2|自分の経験を「発注者側の目線」で棚卸しする
改修工事の経験、小さい現場を掛け持ちした経験、増減見積を作った経験。施工管理として当たり前にやってきたことが、テナント工事の発注者側では、そのまま武器になります。「積算ができる」「図面の足りないところが分かる」という形に言い換えて、書き出してみてください。
私が発注者側へ転職したときの活動の記録は、こちらにまとめています。
施工管理からデベロッパーへ転職した話|準備1年・活動2ヶ月の全記録
ステップ3|業界に詳しいエージェントに聞いてみる
私も、施工管理の経験がどこで評価されるのかを、業界に詳しいエージェントに聞くところから始めました。
登録したからといって、転職しなければいけないわけではありません。自分の経験が、発注者側でどう見られるのかを聞くだけでも、判断材料が1つ増えます。
まとめ
テナント工事の発注者側の電気担当は、入居するテナントの工事で、見積から竣工まで、電気まわりを一手に引き受ける仕事です。一番時間を使うのはテナントへの見積書の積算で、施工管理の経験が一番活きるのは、設計者への電気の助言でした。
大変だったのは、ビルごとに独自のルールがあること。やりがいは、完成したテナントが動いているのを見られること。どちらも、施工管理時代には経験できなかったものです。
施工管理の経験は、立場を変えても無駄になりません。「工事を回す側」から「工事を見る側」へ。 その間に立つ仕事として、テナント工事の発注者側は、電気の施工管理を経験した人に合う選択肢の一つだと思います。


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