「物価上昇のため、この金額となります」
見積書の査定で、そう回答が来たとき、私が次に見るのは根拠の資料があるかどうかです。価格改定の通知が添付されていれば、金額が高くても納得できます。何もなければ、もう一度聞くことになります。
私は電気サブコンの施工管理を6年経験し、いまは発注者側で施工会社の見積書を査定する立場にいます。作る側と見る側の両方を経験して分かったのは、評価の分かれ目が技術力ではないということでした。
この記事では、査定する側が何を見ているのかを書きます。施工会社を批判する意図はありません。 自分がサブコンにいた頃、知っていればよかったと思うことをまとめます。
結論|評価を分けるのは「第三者が納得できる根拠」
先に結論を書きます。
発注者側が見ているのは、確認事項に対して根拠を示せるかどうかです。
金額が妥当かどうかにかかわらず、根拠はこちらで確認します。ただし、求める深さは変わります。 妥当な範囲であれば、質問書の回答で納得できることがほとんどです。別紙の資料までは求めません。
問題は、こちらが高いと感じたとき。 ここで資料が添えられていれば「それならしょうがない」と納得できますが、なければもう一度聞くことになります。
そして重要なのは、その根拠が「第三者が聞いても納得できるもの」であること。 社内でだけ通用する説明では足りません。
- 回答には、根拠となる資料や数字を添える
- 「一般的に」「会社の決まりで」は根拠にならない
- 資料は、第三者が見て分かる形で作る
「1聞いたら10返ってくる」施工会社
この「根拠を示せるかどうか」が、実際にどう現れるか。一言でいうとこれです。
確認事項を1つ聞くと、回答に加えて関連する情報も返ってくる。 資料が添付され、補足の説明があり、こちらが次に聞きたくなることまで先回りされている。
逆に困るのは、1つ聞いても0しか返ってこない場合です。質問に答えていない、あるいは実質的な回答になっていない。そうなると、もう一度聞くところから始まります。
やり取りの往復が減ることが、そのまま「仕事がしやすい」につながります。
なお、これは会社単位とは限りません。同じ会社でも担当者によって変わります。 電気の担当者は対応が良いが空調は違う、前回の担当者は良かったが今回は違う——そういうことは実際にあります。
つまり、評価されているのは会社ではなく、目の前の担当者だということです。
私が施工会社と関わる場面
いまの仕事で、施工会社とやり取りするのは主に4つの場面です。
- 見積書の査定(最も多い)
- VE・CD案の打ち合わせ
- 施工要領書などの資料確認
- 総合図の打ち合わせ
やり取りの基本は書面です。質問書に確認事項を書いて、回答を記載してもらうという形で進みます。
この質問書のやり取りに、施工会社の姿勢が出ます。
見積書の査定で見えること
根拠のある回答は、金額が高くても通る
査定で確認事項を出すと、回答が返ってきます。ここで差が出ます。
信頼できると感じるのは、別紙の資料も添えて回答してくれる施工会社です。
- 価格改定の通知書を添付してくれる
- 設計図に根拠を書き込んで、「このように見込んでいます」と示してくれる
こうした回答が来ると、高値だと思っていた金額でも「それならしょうがない」と納得できます。
そして実務上、これはとても大きいです。事業主への説明がしやすくなるからです。私たちは事業主に対して、その金額が妥当である理由を説明する立場にあります。根拠があれば、そのまま伝えられます。
根拠のない回答は、話が止まる
逆に困るのが、根拠を示さない回答です。同じ内容でも、書き方でこれだけ変わります。
| 話が止まる回答 | 話が進む回答 |
|---|---|
| 「物価上昇のため、この金額です」 | 「物価上昇のためです。メーカーの価格改定通知を添付します」 |
| 「世の中、この市況感です」 | 「◯月時点の建設物価では、この単価です」 |
| 「メーカー見積書は提示できません」 | 「メーカー見積書を添付します。掛率はこの数字です」 |
違いは、資料が1枚あるかどうかだけです。 主張している内容は同じでも、根拠がなければこちらは判断できません。判断できなければ、事業主にも説明できません。
見積書の作り方にも姿勢が出る
根拠を持って作られた見積書と、そうでないものは分かります。
サブコンや協力会社の見積書をそのまま載せ、利益率を上乗せしただけという見積書もあります。金額の内訳が自社で検証された形跡がないと、雑に作られている印象を受けます。
見積書は、会社の姿勢が出る書類だと思っています。
資料の作り方で差がつく
総合図|白黒と線の太さ
この点は、施工管理時代に先輩から教わりました。当たり前のこととしてやっていましたが、それが業界の標準というわけではないと、受け取る側になって分かりました。 実践されている図面とそうでない図面では、確認のしやすさがまるで違います。
チェックしやすい総合図には、共通点があります。
| 見づらい図面 | 見やすい図面 |
|---|---|
| 色をたくさん使ってカラフル | 白黒 |
| すべての線が同じ太さ | 設備のシンボルを太く、建築図を細く |
| 文字やシンボルが小さい | 判読できる大きさ |
白黒がいい理由は単純で、チェックを赤や青のペンで書き込むからです。図面自体がカラフルだと、書き込みが埋もれます。
線の太さも重要です。総合図で見るべきは設備のシンボルであって、建築図はその背景です。優先度に応じて線の太さを変えている図面は、それだけで見やすくなります。
そしてもう一つ。年配の方が図面を見る場面は多いです。文字やシンボルが小さいと、それだけで確認に時間がかかります。
総合図の作り方については、こちらに書きました。
施工要領書|コピペの跡が残っている
施工要領書は、現場が変わっても共通する部分が多い書類です。自社の過去の現場から流用すること自体は、実務上よくあることだと思います。
ただし、成果物の扱いは契約によって変わります。 過去の資料をどこまで転用できるかは、契約書や仕様書で確認してください。
ただ、そのまま提出されてくることもあります。
- その現場では使わない材料が書かれている
- 明らかに太すぎるケーブルが記載されている
- 搬入スケジュールの時系列が、実際と合っていない
コピー元の現場の記述が、そのまま残っているわけです。
実際に施工するイメージで書かれているかどうかは、読めば分かります。
態度と期限
相手の年齢で態度を変える
稀にですが、こういう場面があります。
- 年配で経験がありそうな相手には、丁寧な話し方
- 若くて経験が浅そうな相手には、上から目線の回答
これは確実に損をしています。
若手であっても、その人が事業主への説明資料を作ります。査定の結論を出すのはチームであって、目の前の一人ではありません。
期限を守る
当たり前のようですが、書いておきます。
回答期限を2月22日と決めたのに、2月23日に提出してくる。こういうことが起こります。
多くの施工会社は期限を守ります。だからこそ、守らない場合は目立ちます。
当時の自分を、いまの立場から見ると
正直に書きます。
3年目くらいまでの私は、物足りない担当者だったと思います。 相手が求めている回答を、その場で出せていませんでした。
ただ、一生懸命に調べたり、聞きに行ったりはしていました。そのおかげで、嫌われるところまではいかなかったのだと思います。誠実さは、経験不足をある程度は埋めてくれます。
そのうえで、いま振り返って思うことがあります。
根拠の示し方が薄かった。
図面に根拠を書き込む、別紙の資料を添える——そういうプラスアルファができていませんでした。当時の私は、聞かれたことに答えるだけで精一杯だったのだと思います。
いま見積書を査定する側になって、その一手間があるかどうかで印象がまるで違うと分かりました。
私がどういう仕事をしているかは、こちらに書いています。
設備系コンサルタントの仕事内容|元施工管理が書く実務のすべて
明日からできる3つのこと
① 回答に、根拠となる資料を1枚添える
価格改定の通知、メーカーの見積書、計算書。何か1枚あるだけで、回答の重みが変わります。
「高いですね」と言われたときに、資料で答えられるかどうか。ここが分かれ目です。
② 「一般的に」「会社の決まりで」を使わない
この2つは、相手にとって根拠になりません。
「一般的に」と言われれば、何を基準にした一般なのかと聞き返されます。「会社の決まりで」と言われれば、その決まりは何なのかと聞かれます。
自分が理解できていても、相手に伝わらなければ意味がない。 これが査定する側になって一番強く感じたことです。
③ 資料は、第三者が見る前提で作る
総合図なら白黒と線の太さ。施工要領書なら、その現場の実態に合っているか。
作った本人には分かる資料と、初めて見る人にも分かる資料は違います。後者を意識するだけで、やり取りの回数が減ります。
まとめ
発注者側が見ているのは、第三者が納得できる根拠を示せるかどうかです。
金額が高くても、根拠があれば通ります。資料が1枚添えられているだけで、こちらは事業主に説明できます。逆に「一般的に」「市況感で」という回答では、やり取りが1往復増えるだけです。
技術力の話ではありません。伝え方の話です。
私自身、サブコンにいた頃はこの視点を持てていませんでした。査定される側から、する側に回って初めて見えたという順番です。この記事が、少しでも近道になれば嬉しいです。
- 転職の全体像は → 施工管理の転職まとめ|サブコン6年→発注者側へ移った私の全記録


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