「何年やっても、知識が足りない気がする」「周りはみんな分かっているのに、自分だけ分かっていない」。施工管理をしていると、そんなふうに焦る瞬間があると思います。
私もそうでした。1年目のころは、配管のサイズもケーブルのサイズも分からず、職人さんとの会話で恥をかいて笑われました。嫌味ではなく、「覚えようぜ」という感じの笑いでした。
私は新卒で電気サブコンに入り、施工管理を6年経験しました。そのあと28歳でデベロッパーへ、31歳で設備系コンサルタントへ転職し、今は発注者側の立場で現場を見ています。
この記事では、知識がなかった私が何を使って、どう覚えたのかを書きます。知識がついてきたと感じた目安と、発注者側に移ってから役立ったことまで、実体験でお伝えします。
結論|知識は「全部覚える」ものではない
先に結論です。私が6年間の施工管理で行き着いたのは、次の3つでした。
- 本やカタログの中身は覚えなくていい。「どこに書いてあったか」を覚える
- 覚える順番はない。いまの工程のことから覚える
- 一番効くのは、目の前の現場のことを職人さんに聞くこと
新人教育の本も、メーカーのカタログも、中身をまるまる覚える能力は不要です。というか、覚えられません。大事なのは、疑問が出たときに「ケーブルのことは、あの本のこの辺に書いてあった」と思い出せることです。
ただし、これは「勉強しなくていい」という意味ではありません。全部を同じ深さで覚えようとせず、目の前の工程のことだけは深く覚える。覚える量を減らすのではなく、覚える順番を変えるという話です。
知識がないと焦ってしまう3つの理由
焦るのは、あなたの能力が低いからではありません。私が振り返って思う理由は、次の3つです。
覚えることが多く、数字も中途半端
1年目の私がまずつまずいたのは、配管とケーブルのサイズでした。
| 種類 | サイズの呼び方(細い順) |
|---|---|
| ねじなし電線管 | E19・E25・E31・E39・E51・E63・E75(奇数) |
| 厚鋼電線管 | G16・G22・G28・G36・G42・G54・G70・G82・G92・G104(偶数) |
| ケーブル(CV・CVTなど)の太さ | 2・3.5・5.5・8・14・22・38・60・100sq… |
出典:パナソニック「ねじなし電線管E(E管)」、パナソニック「厚鋼電線管(G管)」、フジクラ・ダイヤケーブル「電線・ケーブルの許容電流」
同じ電線管でも、種類によって奇数と偶数に分かれ、数字も中途半端で区切りが悪いのです。
ちなみに、メーカーの製品ページで寸法を見ると、E19は外径19.1mm、G16は外径21.0mmで厚さ2.3mmです。G16の内径を計算すると約16.4mm。Eは外径に、Gは内径に近い数字になっています。当時の私は、そんな理由も知らず、ただ覚えづらいと感じていました。
本に書いてある通りの現場は存在しない
本を読めば分かる、というわけでもありません。本に書いてある通りの現場は、絶対に存在しないからです。
建物の形も、工程も、納まりも、現場ごとに違います。本の知識だけでは、目の前の現場のどこに当てはまるのかが分かりません。だから私は、現場の状況を本の内容に置き換える。またはその逆を意識するようにしました。
資格の勉強をしても、現場の知識は増えなかった
私は5年目に1級電気工事施工管理技士に合格しましたが、正直、その勉強が現場の知識に役立った感覚は薄いです。勉強は勉強、現場は現場で分けてしまった感覚が強くあります。
今思えば、もっと「現場とつなげる」意識を持って勉強していれば、早く覚えられたかもしれません。逆に、第二次検定の工程管理の問題は、現場で工程表を書いていたので、そのまま書けました。現場で身につけたことが試験に役立った、という順番でした。
資格の勉強法そのものは、こちらにまとめています。
1級電気工事施工管理技士に働きながら一発合格|日曜だけの勉強法
私が知識を増やすのに使った5つの道具
では、現場の知識は何で増やしたのか。私が実際に使ったのは、次の5つです。
| 道具 | どこで手に入れたか | 役立った場面 |
|---|---|---|
| 新人教育の本 | 会社で新入社員に配られた | 部材の名前と使い方を確かめる |
| 先輩が描いた施工図 | 社内 | 施工図の描き方・表現を真似る |
| 建築設備手帳(パナソニック) | 材料代理店から毎年もらえる | 配管サイズの選定(配管・ケーブルの仕上がり外径が載っている) |
| ネグロス電工のカタログ | 現場事務所にあった(年が変わるたびに材料代理店が新しいものを持ってくる) | 現場に届いた材料と照らし合わせる |
| ホーチキのポケット設置基準書 | メーカーの担当者 | プロット図で感知器の位置を決める |
このうち建築設備手帳とポケット設置基準書の2つは、1年目に先輩からもらったものでした。
新人教育の本は、日本電設工業協会が出している『新版 新人教育−電気設備』です。私が使ったのは改訂版でしたが、今は改訂第3版が出ています。会社で配られない場合は、発行元から買えます。
建築設備手帳やポケット設置基準書は、材料代理店やメーカーの担当者に聞くと、もらえることがあります。一方で、ホーチキのポケット設置基準書は、5つの中では出番が少なめでした。使ったのは、プロット図で感知器の位置を決めるときです。たとえば、空調の吹き出し口から1.5m以上離れているかを確かめました。
出典:消防法施行規則第23条第4項第8号(差動式分布型・光電式分離型・炎感知器を除く)
消防の基準は、管轄によって運用が違うことがあります。実際の現場では、所轄の消防署の指導を確認してください。
改修工事で照明器具を更新するときは、メーカーのWebサイトの品番検索も使いました。現場調査で調べた品番を検索すると、その器具の情報が出てきます。生産終了していれば、そう表示され、後継品も書いてあります。さらにカタログのボタンもあって、どのカタログのどこに載っているかまで分かるのです。当時はスマホではなく、パソコンで調べていました。
先輩の施工図は「表現」を真似した
先輩の施工図は、中身よりも表現を真似しました。
電気に関係する文字(たとえば「CVT100sq×2」)は、ゴシック体で太くはっきり。建築に関する文字(「事務室」などの部屋名)は、丸ゴシックで細く控えめに。電気の図面なので、電気の情報をはっきり目立たせて、ほかの情報は控えめにする。強弱をつけることで、電気の情報が見やすくなります。
先輩の図面を真似て、それを自分の現場に落とし込んで描いていました。
一番効いたのは、喫煙所で本を開いて職人さんに聞くこと
5つの道具の中で、一番効いたのは道具そのものではありません。道具を持って、職人さんに聞くことでした。
私の現場の職人さんは喫煙者が多かったので、私はタバコを吸いませんが、一服の時間に喫煙所へ行きました。聞くため、そしてコミュニケーションを取るためです。
そこで新人教育の本の該当ページを開いて、「これがカップリングですよね?配管と配管をつなぐために使うんですよね?」と、自分の理解を先に言ってから確かめました。
目の前の現場のことなので、覚えやすいし、聞きやすい。たとえば、今の現場の屋内のケーブルラックはメラミン樹脂の焼付塗装だけれど、屋外で使うなら、手帳や新人教育の本、ネグロス電工のカタログに載っている溶融亜鉛めっきやスーパーダイマを使うのか?と想像してから、職人さんに聞くのです。
自分の意見を持ってから聞くと、返ってくる答えが変わります。質問の仕方については、こちらで詳しく書きました。
一人現場の乗り切り方|3年目で現場代理人になった私が身につけた5つの習慣
失敗して覚えた知識は忘れない
本や職人さんから覚えたことよりも、もっと忘れないものがあります。自分の失敗です。
VVFケーブルを100m巻でたくさん頼んだ
VVFケーブル 2.0mm-3Cを、100m巻でたくさん頼んでしまったことがあります。必要な数量は1,000m以上あったのに、です。
| 頼み方 | 布設すると |
|---|---|
| 100m巻×10巻 | 1巻から60m引けば残りは40m。40m以下の場所にしか使えない |
| ドラムで1,000m×1巻 | 細かい計算をせずに、一気に布設できる |
100m巻で頼むと、端数が必ず出ます。実際の作業では、そんな細かい計算をしながら布設はしません。頼むならドラムで1,000m×1巻にすべきでした。
厚鋼電線管も曲げられると思い、ノーマルベンドを頼まなかった
厚鋼電線管のG16など細いものは、ねじなし電線管と同じように曲げられると思い込んで、ノーマルベンドを頼まなかったこともあります。
厚鋼電線管は、ねじなし電線管と比べて曲げるのが大変です。G16なら、できないことはありません。それでも、私の現場ではノーマルベンドを使うのが普通でした。私の現場では、ねじなし電線管はE25までなら職人さんに曲げてもらっていました。
どちらの失敗から覚えたことも、今でも忘れていません。材料の発注で失敗しないための段取りは、こちらにまとめました。
「知識がついてきた」と感じた目安
私が「ようやく知識がついてきた」と感じたのは、3年目、初めての一人現場の終盤、受電のあとごろからでした。目安にしていたのは、次のような瞬間です。
- 自分で描いた施工図に、職人さんから質問やツッコミが来なくなった
- 自分で描いた施工図の内容で、そのまま施工された
- 打合せで、電気設備業者としての意見をはっきり言えた
- 工程を先読みして、材料を漏れなく頼めるようになった
- 見るべきカタログと掲載ページが分かり、発注に時間がかからなくなった
たとえばプロット図の打合せで、EPSを狭くされそうになったことがあります。そのとき「盤の大きさがこれだけあるので、これ以上狭くすると人が入りづらく、作業がしにくい。やめてほしい」と言えました。
プロット図の打合せの進め方は、こちらに書いています。
工程の先読みも同じです。ボード貼りが何週間後で、LGSの建込みがこの日に終わる。ということは、ボックスを建て込む猶予は何日ある。日数は足りるが、余裕はそこまでない。だから、ボックスやボックスの支持材、配管などの材料を漏れなく頼まなければ。こう逆算できるようになりました。
正直に言うと、知識が足りないと感じる場面は、そのあともありました。たとえばバスダクトを使った現場は、応援で入った程度しか経験がありません。ケーブルで電源を送る方式ではない現場を、一度やってみたかったと今でも思います。
何年目でも、経験していない工事のことは知らないのです。10年目近くになって知識が足りないと焦っている人も、それはおかしなことではありません。いまの工程から覚えるのは、何年目でも同じです。
発注者側に移って分かった、現場の知識の使い道
施工管理で身につけた知識は、発注者側に移ってからも役立ちました。
施工方法、材料、図面の表現、見積に計上されている項目(配管の付属品や現場雑費など)が分かっていたので、見積の査定には違和感なく入れました。一方で、ゼロから金額を組み立てる概算見積の作成は苦労しました。現場の知識があっても、すべての仕事がスムーズにいくわけではありません。
サブコン時代には、受変電の改修工事で現場代理人を担当したこともあります。その経験があるので、今はコンサルの立場で改修工事を見るとき、計画段階で指摘ができます。「この停電時間では足りないのでは」「既存の回路は確認しましたか」といった点です。
先輩や協力会社の人からは、深夜に切り替えようとしたら回路番号が想定と違って、停電できずに切り替えられなかった、という話を聞いていました。だから自分の現場では、そうならないように、時間をかけて徹底的に現地を調べました。図面だけの情報ではなく、現地の確認が欠かせません。人の失敗から覚えた知識も、ちゃんと役に立つのです。
発注者側のコンサルタントの仕事内容は、こちらにまとめています。
設備系コンサルタントの仕事内容|元施工管理が書く実務のすべて
今日からできる3ステップ
知識がないと焦っているなら、今日から次の3つを試してみてください。
ステップ1:いまの工程のことを1つ決めて、本やカタログで「場所」を確かめる
全部を覚えようとしなくて大丈夫です。今週の工程に出てくる材料や作業を1つ決めて、本やカタログのどこに載っているかを確かめましょう。中身を覚えるのではなく、場所を覚えるのが目的です。
ステップ2:自分の理解を言ってから、職人さんに聞く
「これって何ですか?」ではなく、「これは〇〇ですよね?」と、自分の理解を先に言ってから聞いてみてください。私は、本の該当ページを開いて見せながら聞いていました。
ステップ3:失敗したら、原因と「次はこうする」を書き残す
失敗したら、なぜ失敗したかを考えて、次はどうするかを書き残しましょう。これを続けていれば、覚えていきます。自分の失敗は、嫌でも忘れません。
それでも知識が身につかないとしたら、あなたのせいではなく、環境のせいかもしれません。教えてくれる人がいない、覚える余裕すらないほど忙しい。そういう職場なら、外の世界で自分の経験がどう見られるかを知っておくのも一つの方法です。
登録したからといって、転職しなければいけないわけではありません。今の経験が社外でどう評価されるのかを聞くだけでも、判断材料が1つ増えます。
まとめ|失敗しよう
最後に、知識がないと焦っているあなたに伝えたいのは、「失敗しよう」ということです。
知識が増えないのは、失敗を教訓にしていないか、失敗を怖がってチャレンジしていないかのどちらかだと、私は思います。成功するには、早く失敗することが大事です。
若いうちは、失敗しても周りが「若いからね」と見てくれます。ところが年齢を重ねると、「こんなことも分からないのか」と思われるようになります。私自身も含めて、人は年齢を重ねると、プライドが謎に高くなりがちです。だから、失敗できるうちに失敗したほうがいい。
そして、周りを頼ってください。職人さん、先輩、同僚。一人で考えるのも大事ですが、周りの活用とのハイブリッドが一番です。
もし、あなたの焦りの正体が知識ではなく、サブコンという立場のキツさから来ているなら、こちらの記事も読んでみてください。


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