「二次側のブレーカー、投入するから廊下に居なよ。一斉に照明が点くと思うよ」
上司にそう言われて、私は暗い廊下で待っていました。冬の曇り空で、外も明るくない日でした。
次の瞬間、目の前がパッと明るくなりました。建物に、電気が通った瞬間です。
電気が通っていない建物は、置物のようなものです。そこに電気を通すことで、照明が点き、機械が動き出す。受電は、建物に命を吹き込む作業だと私は思っています。
私は電気サブコンの施工管理を6年経験し、3年目で一人現場の現場代理人を任されました。この記事では、その現場で初めて受電を担当したときの段取りを、時系列とともに書きます。
何を、いつまでに、誰に対して動かす必要があるのか。そして、自分ではどうにもならないものが何なのか。
結論|自分でどうにもならないものから先に動かす
先に結論を書きます。
受電の段取りで最も重要なのは、自分の努力ではどうにもならないものを、真っ先に動かすことです。
具体的には、電力会社への申込と、消防との事前協議の2つ。この2つは、相手の予定に組み込まれるまで、こちらは待つことしかできません。
逆に、施工図の作成も製作図のチェックも、遅れているなら自分が頑張れば取り戻せます。同じ「やること」でも、性質がまったく違います。
- 電力会社への引き込み申込は、着工後すぐに提出する
- キュービクルの設置位置は、管轄消防と早期に協議しておく
- 施工図・製作図の作成は自分の裁量で進められるため、優先順位は下げてよい
受電はいつ行うのか
私が担当した現場では、竣工の3〜5ヶ月前に受電日を設定していました。
ただし、これは建物の用途や規模、電力会社の地域によって変わります。一般論として何ヶ月前と言い切れるものではないので、自分の現場では必ず工程表と設計図で確認してください。
大事なのは受電日そのものより、そこから逆算して何をいつまでに終わらせるかです。
受電までにやること、その時期
私が実際にやったことを、時期の早い順に並べます。
右端に「遅れたとき、自分で巻き返せるか」を入れました。ここが優先順位を決める基準になります。
| 時期 | やること | 相手 | 巻き返し |
|---|---|---|---|
| 着工直後 | 電力引き込みの申込 | 電力会社 | ✕ |
| 着工初期 | キュービクル設置位置の事前協議 | 管轄消防 | ✕ |
| 早い段階 | キュービクル・盤類の製作図チェック | メーカー・代理店 | △ |
| 早い段階 | 幹線設備の施工図作成 | 社内・設計者 | ○ |
| 受電の約1ヶ月前 | キュービクル搬入計画書の提出 | 元請け | ○ |
| 受電の約1ヶ月前 | 幹線ケーブルの布設 | 自社・協力会社 | △ |
| 受電の約半月前 | キュービクルの搬入・据付 | メーカー・レッカー業者 | △ |
| 受電の約半月前 | 分電盤・動力盤の設置、幹線接続 | 自社・協力会社 | △ |
| 設置後 | 消防への設置届の提出 | 管轄消防 | ○ |
| 受電当日 | 絶縁耐力試験・絶縁抵抗試験・継電器試験 | 試験業者・電気主任技術者 | ○ |
✕がついた2つが、着工直後にやるべきものです。ここだけは、自分がどれだけ頑張っても取り返せません。
なお、消防への提出書類には施主の印鑑が必要になるので、その手配も逆算して動くことになります。
最優先は、電力会社と消防
電力会社への申込は、現場が始まったらすぐ
これを忘れると、どうにもなりません。
私の感覚では、申込から電力会社のOKが出るまで3ヶ月以上かかりました。しかも、申込をしないと電力会社側は工事の予定を立ててくれません。こちらがいくら急いでも、相手のスケジュールに乗るまでは何も進まないのです。
だから、現場が始まったら真っ先に出す。これが鉄則だと思っています。
消防へは「ここに置きたい」と話をつけておく
もう1つが消防との事前協議です。
やることはシンプルで、「ここにキュービクルを設置しようと思っています」と早い段階で相談しておくだけです。これだけで済みます。
問題は、これを後回しにした場合です。設置間際になって初めて消防に行くと、「この位置はダメ」「敷地境界線からもっと離してください」と言われることがあります。そうなると、それまでの計画が水の泡になります。
私自身は問題なく進みましたが、先輩から失敗談を聞かされました。キュービクルを設置した後に、消防から位置を指摘されたという話です。設置届は設置後に提出すればよいことになっていますが、担当者や管轄によっては、事前協議がないことを問題視される場合があります。
その先輩は説得して設置位置の変更は免れたそうですが、相当苦労したと聞きました。
消防への確認は、キュービクルの位置だけではありません。感知器や誘導灯についても同じことが起こります。実際に受けた指摘と、事前協議の進め方はこちらにまとめました。
消防検査で指摘されたこと|事前確認で防げるものと防げないもの
一人現場で、実際に苦労したこと
3年目で一人現場を任されていたので、受電関係もすべて自分でやりました。特に苦労したのは3つです。
電力会社への申込
やったこと自体が初めてでした。しかも当時はWeb申込が始まったばかりのタイミングで、先輩もWeb申込の経験がありませんでした。
お手本がない状態で進めることになり、想定以上に時間がかかりました。
製作図のチェック
キュービクルや盤類の製作図は、メーカー・代理店とのやり取りを3回ほど繰り返して完成させました。
それで終わりではありません。完成した図面を設計者や施主に見せると、そこからまたチェックが入ります。何度も往復することになりました。
キュービクル搬入計画書の作成
作成した経験がなかったので、先輩の過去の現場の資料を参考に作りました。
この書類が難しいのは、電気以外の知識が必要になることです。レッカーやユニック車の能力、設置位置までの経路、養生の方法——電気の知識だけでは計画が組めません。
一人現場をどう回していたかは、こちらに書きました。
一人現場の乗り切り方|3年目で現場代理人になった私が身につけた5つの習慣
ヒヤリとした話|ケーブルの盗難
幹線ケーブルを布設する前日、ケーブルドラムを複数搬入しました。翌日から布設を始めて、作業も終盤にさしかかった頃です。
先輩から、こう聞かれました。
ケーブルドラムの盗難対策って、なんかしてる?
何もしていませんでした。
ケーブルの導体は銅です。銅は高く売れます。 夜中にケーブルドラムごと盗まれる事件が、過去に実際にあったという話でした。
そのときは布設作業が残り1日だったこともあり、特別な対策はしないまま終えました。もし盗まれていたら、工程も予算も大変なことになっていました。
いま思えば、運が良かっただけです。
受電当日の流れ
準備が終わっていれば、当日そのものは長くかかりません。
私の現場では、14時頃から開始しました。昼の打ち合わせが終わってからです。
立ち会ったのは、電気主任技術者、試験を実施する業者、職長、私、そして上司。
- 開始:14時頃
- 立会:電気主任技術者、試験業者、職長、私、上司
- 所要:約1時間(規模による)
高圧ケーブル、キュービクル、トランスの絶縁耐力試験と継電器試験を実施し、受電まで1時間ほどで終わりました。規模によって変わりますが、準備さえできていれば当日は淡々と進みます。
試験が終わった後、上司からこう言われました。
PASの投入、DSの投入、VCBの投入、LBSの投入もやってみな
PAS(高圧気中負荷開閉器)、DS(断路器)、VCB(真空遮断器)、LBS(高圧交流負荷開閉器)——電柱側から建物内へ、高圧の電気を順に通していく操作です。
業者の方に見てもらいながら、自分で操作させてもらいました。初めての経験で、新鮮でした。
マルチメーターに6,600Vと表示が出たとき、「動いたんだ」と思いました。ただ、正直なところ、そこまでの感動はありませんでした。数字が出ただけでは、実感がわかなかったのだと思います。
それが変わったのは、この後でした。
照明が一斉に点いた瞬間
感動が来たのは、その後です。
当時、ある一面の分電盤では幹線ケーブルの結線が終わっていて、二次側の一部——廊下部分の照明の取付と結線も完了していました。
LBSを投入し、対象の分電盤のキュービクル側の主幹ブレーカーをONにした後、現地へ移動しました。上司が分電盤の側でこう言います。
二次側のブレーカー投入するから、廊下に居なよ。一斉に照明が点灯すると思うよ
私は廊下で待機しました。
次の瞬間、目の前がパッと明るくなりました。
建物に命が吹き込まれた、と思いました。同時に、心の中にあったモヤモヤが晴れていく感覚がありました。それまでの苦労が、報われた気がしたんです。
その日は冬で、雲の多い曇りの日でした。外が明るくなかった分、照明の明かりがはっきりと確認できました。天候にも恵まれたのだと思います。
これから受電を任される方へ
① 電力会社と消防は、とにかく早く
繰り返しになりますが、ここが一番大事です。この2つは自分でコントロールできません。
施工図が遅れているなら、自分が頑張れば取り戻せます。でも電力会社の工事予定は、こちらの努力では動かせない。だから早め早めに動くしかありません。
② 盤類の納期は「発注してから」ではない
これは私の時代より、いまのほうが深刻な問題だと感じています。キュービクルや盤類の製作納期が長くなっている印象があるからです。
注意してほしいのは、「納期5ヶ月」と言われたとき、それは発注にGOをかけてから5ヶ月だということです。
その前段階があります。
| 工程 | 期間の目安 |
|---|---|
| メーカー側での製作図作成 | 1〜2ヶ月 |
| こちらのチェックと修正のやり取り | 1ヶ月程度 |
| 発注から製作完了まで | 5ヶ月 |
合わせると、トータルで8ヶ月ほどかかる計算になります。ここを読み間違えると、工程が破綻します。製作図のチェックと発注も、早め早めに動いてください。
③ ケーブルの盗難対策をする
銅は現在も高騰しています。狙われやすい状況が続いていると考えたほうがいいです。
ケーブルドラムにチェーンと南京錠をかける、監視カメラを設置する——できる対策は取っておくべきです。
それでも盗む人はいます。最悪の場合、布設した後のケーブルを切断して持っていく事例もあると聞きます。十分に注意してください。
④ 書類の作り方を、先輩から盗んでおく
現場で起きること——キュービクルの搬入方法や試験の手順は、見ていれば必然的に覚えます。
意識して覚えておくべきなのは、書類のほうです。搬入計画書、施工計画書、消防への提出書類。若手のうちは作成を任されることは少ないと思いますが、先輩の資料を見せてもらって、構成と意味を聞いておくことをおすすめします。
現場代理人をやるなら、書類にも意識を向けておく必要があります。私が一人現場で苦労したのは、まさにこの部分でした。
まとめ
受電の段取りで大事なのは、自分でどうにもならないものから先に動かすことです。電力会社への申込と、消防との事前協議。この2つだけは、早すぎることはありません。
準備さえ終わっていれば、当日は1時間ほどで淡々と終わります。大変なのは当日ではなく、そこまでの数ヶ月です。
そして受電の瞬間、暗かった建物に照明が一斉に点きます。あの光景は、電気の施工管理をやっていて良かったと思える数少ない場面のひとつでした。
- 施工管理の働き方について書いた記事は → 施工管理の転職まとめ|サブコン6年→発注者側へ移った私の全記録


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