じつは、退職します
個室の居酒屋で、6年間お世話になった先輩にそう伝えました。返ってきたのは、引き止めではありませんでした。
施工管理の退職は、他の職種より切り出しにくいと感じる方が多いはずです。現場が動いている、協力会社との関係がある、次の現場の話も出ている。言い出すタイミングを何ヶ月も先送りしている方もいると思います。
私は電気サブコンの施工管理として6年働き、その後デベロッパー、設備系コンサルタントへと2回転職しました。2回の退職で、約25人に「辞めます」と伝えています。
この記事では、私が実際にいつ・誰に・どんな言葉で退職を切り出し、どんな引き止めを受けたのかを、一般論ではなく事実だけで公開します。
結論|切り出しは「タイミング・言い切り・順番」で決まる
結論から書きます。退職の切り出しは、次の3つを先に決めておけば終わります。
- タイミング:現場の区切りを狙う。引き継ぎが発生しないだけで負担がまったく違う
- 言い切り:「退職したい」ではなく「退職します」。相談ではなく報告として伝える
- 順番:直属の上司が最初。その後は関係性の深い順に
この3つを決めたうえで臨んだ結果、上司との面談は10分ほどで終わりました。引き止めは、たった2往復で終わっています。
ただし、本当に重いのはその後でした。
お世話になった先輩や協力会社の方々に伝えることのほうが、上司への報告よりはるかにツラかった。これが2回の退職を経験しての実感です。周囲への報告には3週間かかりました。人数にして約15人。そのすべてを、できる限り直接会って伝えています。
私が退職を切り出したときの記録
事実を先に公開します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 切り出した時期 | 内定承諾から1週間以内(退職日の約1.5ヶ月前) |
| そのときの現場 | 竣工し、竣工図の取りまとめまで完了した直後 |
| 最初に伝えた相手 | 直属の上司(課長) |
| 場所・状況 | 課長が常駐していた別現場の事務所。現場完了のフィードバック面談 |
| 伝えた言葉 | 「退職します」(「退職したい」ではない) |
| 引き止め | あり。次の現場の予定を示された |
| 引き止めが終わった瞬間 | 「次の会社は決まっているのか」→「内定をいただいています」 |
| 申し出から退職日まで | 約1.5ヶ月 |
| 引き継ぎ | なし(担当現場が完了していたため) |
| 周囲への報告 | 約15人。課長に伝えた日の夜から動き、3週間以内に完了 |
| 有給消化 | 10日(消えた代休は消化できず) |
竣工を終えた安堵と、これから伝えることへの緊張が同時にありました。面談の場所は、自分の現場ではなく、課長が常駐している別の現場事務所です。そこまで足を運ぶ道中で、頭の中で何度も言葉を組み立てていたのを覚えています。
引き継ぎがゼロで済んだのは、竣工と書類の取りまとめが終わったタイミングを選んだからです。
この記録から見えた4つのポイント
①「したい」ではなく「します」と言い切った
私が課長に伝えたのは「退職したいと思っています」ではなく、「退職します」でした。
「したい」は相談です。相談として受け取られれば、相手には引き止める余地が生まれます。「します」は報告です。報告であれば、話は条件と手続きに移ります。
言葉を1つ変えるだけですが、その後の会話の性質が変わります。
②引き止めは、たった2往復で終わった
「退職します」と言った直後、課長は困惑した様子でした。そして、次の現場の話を始めます。
あの現場、知ってるだろ。営業が獲得してきたやつ。あそこの現場代理人、お前にやってもらおうと思ってたんだけどな
社内の噂で聞いたことのある現場でした。私が入る前提で、すでに話が進んでいたことになります。
そのうえで、こう聞かれました。
次の会社は決まっているのか
「内定をいただいています」と答えました。返ってきたのは、こういう言葉です。
次が決まっているならよかった。決まっていないのに辞めるのは、心配だから
引き止めは、ここで終わりました。止めようとしていたのではなく、心配してくれていたのだと分かった瞬間でした。
引き止めは、「まだ考え直すかもしれない」と相手が思っている間だけ続くものだと感じました。決まったことだと伝われば、話は手続きに移ります。
もう1つ、後から振り返って思うことがあります。課長があっさり受け入れたのは、この業界の大変さを、上司の側も分かっているからではないかということです。
残業の多さも、他工種との調整の厳しさも、課長自身が通ってきた道です。だからこそ「辞めるのも仕方ない」という感覚を、どこかで持っているのだと思います。あくまで私の実感ですが、これは施工管理という職種の特徴かもしれません。
引き止めが長引くのではないかと身構えていた方は、少し肩の力を抜いてよいかもしれません。
③内定1社で切り出したが、そこには入っていない
ここは誤解されやすいので、はっきり書いておきます。
私が「内定をいただいています」と答えたとき、決まっていたのは1社だけでした。そして最終的に入社したのは、その会社ではありません。
退職を伝えた時点で、まだ8社の選考が残っていました。その後も面接を受け続け、追加で2社から内定が出ています。応募10社に対して、内定は最終的に3社。入社したのは、2社目に内定をもらった会社でした。
選考を続けた理由は3つです。比較したかったこと、保険が欲しかったこと、そして単純に選択肢を増やしたかったこと。
2回目の退職でも同じことをしています。切り出した時点で残り4社、その後1社から追加の内定が出ました。こちらは最初の内定先に入社しています。
つまり、内定1社は「そこに決める」という意味ではなく、「切り出せる状態になった」という意味でした。
退職を伝えるハードルが高いのは、「1社決まっただけで人生を決めてしまう気がする」からだと思います。実際にはそうではありません。切り出した後も、選考は続けられます。
④引き継ぎゼロで抜けられた理由
竣工と引き渡し書類の完了後だったため、引き継ぐべき業務がありませんでした。次に入る予定だった現場は、同じ部内の別現場を担当していた人が配置転換となり、現場代理人として入っています。
工期の途中で切り出す覚悟が必要な場面もありますが、選べるなら、区切りのタイミングを狙う価値はあります。
あなたの担当現場は、いまどの段階でしょうか。竣工が見えているなら、そこが一番切り出しやすいタイミングです。逆に着工直後であれば、無理に急がず、区切りまで準備の期間に充てるという選択もあります。
実際にどう伝えたか
竣工面談の流れで、そのまま切り出した
面談は、現場完了のフィードバックという場でした。私はその流れの中で切り出しています。
伝えたのは、次のような内容です。
- この現場は大変だった。残業も多く、他工種との調整に追われ続けた
- それでも竣工まで持っていけたことはよかった
- ただ、今回だけでなく、過去の現場でも同じ思いをしてきた
- こういう思いはもう嫌なので、退職します
退職理由は本音で伝えました。サービス残業のこと、他工種の都合に振り回される働き方のこと。ただし、サービス残業の実際の時間数は伝えていません。
数字を出せば、それは交渉の材料になります。私は交渉をしに行ったのではなく、報告をしに行ったので、そこは伏せました。
なお、残業の実測値については別記事にまとめています。
施工管理業務 サービス残業のリアル|勤務表と実態の差を記録で公開
順番を決めて、関係性の深い順に伝えた
課長に伝えたその日の夜から、周囲への連絡を始めました。順番は決めていました。関係性の深い順です。
最初は、新入社員のころからお世話になった先輩でした。一人現場を任されていたころ、「聞く先輩は一人に絞る」と決めて、集中して頼っていた相手です。判断に迷ったときは、いつもこの人に確認していました。
現場が完了したタイミングだったので、食事に誘いました。店は個室のあるところを選んでいます。大衆酒場のような場所では、誰かに聞かれるリスクがあると考えたからです。社内で噂が先に回ることだけは避けたかった。
最初は、担当現場が終わった話をしていました。その流れで切り出します。
じつは、退職します
驚かれました。そのうえで、こう言ってもらいました。
残念だけど、次も決まっていて、同じ電気関連の仕事をやるなら良かった
私が「教えてもらったことは、今後も大事にしていきます」と返すと、「そう言ってもらってよかった」と。
そして最後に、こう言われました。
自分が監理技術者で、お前が現場代理人で現場をやってみたかった
実現しなかった未来の話をされたのは、このときが初めてでした。 この一言は、いまでも覚えています。
15人に、3週間かけて会いに行った
協力会社の方々、メーカーや代理店の担当者、同期にも伝えました。全部で約15人です。上司の許可は取っていません。課長に正式に報告した時点で、そこから先は自分の判断でよいと考えました。
関係性の深い方には、できる限り直接会って伝えています。電話やメールで済ませるのは失礼だと思ったからです。 複数人に同時にアポを取って回り、3週間以内には伝えきりました。
週に5人ペースです。日中は現場と退職手続き、夜はアポ。しかも毎回、気の重い話をしに行くことになります。辞めると決めた後のほうが忙しかったというのが正直なところでした。
結果として、「なんで辞めるの」「ありえない」と言う人は、一人もいませんでした。全員が受け入れて、応援してくれました。
- 伝えた人数:約15人
- 完了までの期間:3週間以内
- 課長への報告から周囲への連絡開始まで:同日
2回目の退職は、まったく違った
その後、私はデベロッパーから設備系コンサルタントへもう一度転職しています。同じ「退職を切り出す」でも、1回目とはかなり違いました。
| 項目 | 1回目(サブコン→デベロッパー) | 2回目(デベロッパー→設備コンサル) |
|---|---|---|
| 切り出した時期 | 退職日の約1.5ヶ月前 | 退職日の2ヶ月前 |
| 場面 | 現場完了のフィードバック面談 | 評価面談 |
| 伝えた言葉 | 「退職します」 | 「退職します」 |
| 引き止め | 1度。次が決まっていると伝えて終了 | 1度。理由を伝えて終了 |
| 引き継ぎ | なし | 担当案件5件を1ヶ月かけて引き継ぎ |
| 周囲への報告 | 約15人 | 約10人 |
| 有給消化 | 10日 | 約20日(実質1ヶ月) |
切り出しにくかったのは、圧倒的に1回目だった
2回目のほうが楽でした。理由ははっきりしています。新卒で入った会社への思い入れが強かったからです。
これは私だけの感覚ではありません。1社目でも2社目でも、周りの転職経験者に聞くと同じことを言います。中途で入った会社より、新卒で入った会社のほうが切り出しにくい。多くの人が通る感覚のようです。
いま1社目にいる方が「言い出せない」と感じているなら、それは弱さではなく、ほぼ全員が経験することだと思ってください。
内定が1社あるだけで、言い方が変わった
2回目の退職理由は、評価制度への不満でした。今回は具体的に、はっきりと伝えています。
技術的な知識を持たない新卒より評価されないのはおかしい。自分より前に入社した中途採用者より案件の実績を上げているのに評価に反映されないのはおかしい。そう言い切りました。
ここまで踏み込めたのは、内定を1社持っていたからです。言い方は選びますが、後ろ盾があると強気に出られます。逆に言えば、内定がない状態で不満をぶつけても、交渉にすらならなかったはずです。
このときも、切り出した時点で4社の選考が残っていました。その後1社から追加の内定が出ています。
なお、退職理由をどう言語化したかは、こちらの記事に書いています。
デベロッパーを3年で辞めた理由|設備系コンサルへ2回目の転職記録
2社目の課長は、ピンと来ていなかった
一番驚いたのは、課長の反応の差です。
1回目は、すんなり受け入れられました。「わかってもらえた」という手応えがありました。上司自身が現場の大変さを通ってきているからだと思います。
2回目は、ピンと来ていない印象でした。私が問題だと感じていた評価の格差を、上司の側は問題と捉えていない。それが会社全体の空気でもありました。実際、問題視していたのは、私と同じ境遇の中途採用者だけです。
辞める理由が相手に理解されるかどうかは、会社の空気によって決まる——これが2回目で分かったことでした。理解されなくても、退職の意思が通らないわけではありません。
有給は、フルに使ったほうがいい
1回目は10日しか消化できず、溜まっていた代休も消えました。退職までの期間に半月ほどの改修工事を担当したためです。
2回目は約20日、実質1ヶ月を有給に充てました。こちらのほうが正解だったと思っています。
辞めると決めた後の期間に新しい業務を引き受けても、得るものは多くありません。それより、旅行なり休養なり、次の環境に向けた時間に使うべきでした。1回目の反省が、そのまま2回目に活きた形です。
正直に書いておきたいこと
伝えるという行為そのものは、最後までツラいままでした。
上司に「退職します」と言うのは、覚悟さえ決めれば言えます。しかし、6年間かけて関係を作ってきた人たちに、一人ずつ「辞めます」と言って回るのは、まったく別種のキツさがありました。応援してもらえたから結果的によかったものの、会いに行く前は毎回、気が重かったのが正直なところです。
もう1つ。有給は10日ほど消化できましたが、溜まっていた代休は消えました。制度上は取得できるはずのものでしたが、実際には使えないまま退職しています。
退職までの1.5ヶ月は、半月ほどの軽微な改修工事を担当し、退職届の提出や支給品の返却といった社内手続きを進め、最後の10日を有給に充てました。
なお、申し出から退職日までに必要な期間は会社ごとに異なります。1ヶ月前と定められている会社もあれば、2ヶ月前という会社もあります。有給の扱いも同様です。私の約1.5ヶ月はあくまで在籍先での話なので、まずは自分の会社の就業規則を確認してください。
これから切り出す方へ、3つのステップ
ステップ1|辞める理由を、自分の言葉にしておく
引き止めで揺らぐのは、理由が固まっていないときです。不満を仕分けして、環境の問題なのか一時的な感情なのかを切り分けておくと、面談で迷いません。
転職の自己分析のやり方|施工管理の不満を4つに仕分けて決断するまで
ステップ2|内定を取ってから切り出す
私の引き止めが終わったのは、内定を伝えた瞬間でした。順番を逆にすると、転職活動の期間ずっと社内で気まずい立場に置かれます。
必要なのは1社です。そこに入社を決める必要はありません。 切り出した後も選考は続けられます。
私の場合は、準備に1年、実際の活動に2ヶ月かけています。その全記録はこちらです。
施工管理からデベロッパーへ転職した話|準備1年・活動2ヶ月の全記録
ステップ3|伝える順番を、先に決めておく
上司の次に誰へ、その次に誰へ。関係性の深い順に並べておくだけで、当日の迷いがなくなります。
社内で噂が先に回ることを防ぐ意味でも、直属の上司を最初に置くのは有効でした。
そして、ここまで読んで「まず内定を取るところからだ」と感じた方へ。
登録したからといって、転職しなければいけないわけではありません。私自身、準備に1年かけながら、最後まで迷い続けていました。まずは求人を見て情報を集めるところから始めれば十分です。
まとめ
施工管理の退職は、切り出すタイミングと言い方を決めておけば、上司への報告そのものは長い話になりません。私の場合、引き止めは「次が決まっているか」という一言で終わりました。
本当に重いのは、その後です。お世話になった人たちに、一人ずつ伝えて回る時間。私はそこが一番ツラく、そして一番やってよかったと思っています。
そして2回経験して分かったのは、切り出しにくさのピークは1社目だということです。新卒で入った会社を辞めるときが一番重く、2回目以降は驚くほど軽くなります。いま言い出せずにいるとしても、それはあなたが弱いからではありません。
- まだ辞めるか迷っている方は → サブコンを辞めたい|キツさの正体は「立場」だった。6年働いた私の結論
- 転職の全体像を知りたい方は → 施工管理の転職まとめ|サブコン6年→発注者側へ移った私の全記録


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